1/18 トークショー付特別試写会イベントレポート

公開に先立ち、1月18日(水)自称「未婚のプロ」として幅広い層に絶大な人気を誇るコラムニスト、ラジオパーソナリティ、ジェーン・スーさんをスペシャルゲストに、女性の本音を突いたトークショー付き試写会を開催しました。

本編上映後、ジェーン・スーさんと、TBSラジオ「ジェーン・スー生活は踊る」(月〜金11:00-13:00)で番組内選曲および金曜コーナー「ミュージック・プレゼント」担当する高橋芳朗さんが登壇。
会場には女性のお客様が多く足を運び、ジェーン・スーさんによる本作の感想や、ジョン(イーサン・ホーク)の駄目男ぶりを容赦なく切る言葉に会場は笑いに包まれ、高橋芳朗さんによる音楽から見る本作の魅力など、終始盛り上がるイベントとなり、30分のトークイベントは幕を閉じました。

dsc_0040

日時:1月18日(水)19:50~20:20(上映後)
場所: スペースFS汐留 座席数167席
登壇:ジェーン・スー(コラムニスト・ラジオパーソナリティ)
    高橋芳朗(音楽ジャーナリスト)

<『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』トークショー付特別試写会イベントレポート>
ジェーン・スー(以下、J):こんばんは。 TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」という番組のパーソナリティををやってます、ジェーン・スーと申します。番組を聞いたことある方どれくらいいらっしゃいます?半分くらい!よかった。ありがとうございます。TBSラジオにて午前11時~1時まで、平日は毎日生放送でやっておりまして、その番組の選曲をしてくださってるのが、今日のお相手である音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんです。よろしくお願いします。今日はこの映画について高橋さんと語ろうと思い、お時間をいただきました。(観客は)8割くらい女性の方かしら?

高橋芳朗(以下、T): 圧倒的に女性が多いですね

J:この世代は、ジョン役のイーサン・ホークが情けなくなる前の時代を知ってる世代ですよね(笑)私にとっての格好良いイーサンは『リアリティバイツ』です。ニヒルでシニカルなんだけど、憎めないところがあって…いつくらいからですかね?こうなったのは。

T:『ビフォア3部作』(リチャード・リンクレーター監督)あたりからですかね?特に『ビフォア・ミッドナイト』は今回の映画と重なる部分も多いですよね。

J:今回ますますその情けなさに磨きがかかってますよね。ジャンル的には広義での<ラブコメ>にギリギリひっかかる作品ですけど、いままでなかったような内容がけっこうありましたよね。

T:ラブコメディの醍醐味って、恋愛思考実験としてどれだけおもろいネタと提供できるかだと思うんですよ。そういった意味で「この男、不倫して結婚したけどやっぱり元の奥さんに返品します!」というのは、いままでにないなかなかおもしろい問題提起だと思いました。題材的には結構扱いがむずかしいと思うんですよ。マギーの行動は倫理的にちょっと微妙なところもありますから。

J:もっと悲劇や憎悪がうずまいてもいいはずなのに、どこかちょっとユーモアが漂ってる。

T:たとえばウディ・アレンがこういうテーマで映画を撮ったら、もっとシニカルで意地悪で「人間とは愚かな生き物よのお」みたいな滑稽なトーンになると思うんです。

J:もうちょっと悲観的だったかもしれませんね。

T:キャスティングがいいのか、それとも演出がいいのか……マギーの行動自体はどうかと思うところがあるし、実際に彼女は劇中で周囲の人たちからめちゃくちゃ怒られてるけど、それでもマギーの選択をじっくり見守っていけるあたり、絶妙なバランスで成立してるお話ですよね。だってこれ、番組(「生活は踊る」)でこんな相談がきたりしたら……ねぇ。

J:不倫の相談ってたくさんありますもんね。

T;「不倫して結婚した男_を元の妻に返したいんですけどどうしたらいいでしょう?」なんて相談がきたら、そりゃあ「ふざけるな!」って感じになっちゃうじゃないですか。でも、この映画ではそんな彼女の計画を温かく見ていけるわけだからね。

J:監督が女性ということもあるのかもしれませんが、一番印象に残ったのは、対立構造になるはずのマギーと前妻ジョーゼットにバディ感が出たところ。通常なら、お互いを憎み合ったり、嫌いあったり、会うことはあっても相手に対してのヘイトがメインに描かれると思うんです。それがこの物語では、何を思ったか、ふたりがいい友達になってしまう。これが非現実的かというと、実はそうでもないんじゃないかなと。私の目にマギーやジョーゼットや子供たちが一番幸せそうに見えたのは、ジョンが怒って出てったあとに、みんなでマギーの家に集まっていたシーンだったんです。食洗機に液体洗剤いれてバタバタになった朝の場面が、実は一番微笑ましかったんじゃないかな、と。あれ?もしかしたら、「通い婚」というシステムで回る世の中でもいいのでは?と思ってしまいました。男性でも女性でも、1人で子育てはなかなかむずかしいと思うんですけど、何人で助け合いながら子供を育てていくのはアリかもしれない。子育てが忙しい時期に、夫婦のどちらかが「私のこともみて!」と恋愛感情を関係性に持ち込むと、なんらかの困難が生まれるのかもしれませんね。だからあの歪な共同体も、それはそれでいいんじゃないかと思いました。「女の敵は女」という言葉がありますよね。女性でそれを言う人もいるんですよ。かく言う私もちょっと前までは考えなしにそう言ってました。これってよく考えると変な話で、男性同士の意見や立場がが対立したときに「男の敵は_男」っていう人、誰もいないじゃないですか。

T:そうですね。

J:つまり、逆説的に言えば「女は常に一枚岩で当然」と思われてるんですよ、社会通念として。女同士だったらそれだけで仲良くなれるはずなのに、それを裏切るのは、女が怖いからとか、信用ならないからと言外に匂わせる言葉ですよ、「女は女の敵」は。それを言ったら誰の溜飲がさがるのかしら?女だろうが男だろうが、利害が対立したり意見が合わなかったり、そんなの普通にありますよね。その逆もある。ステレオタイプな見方をすれば、女同士バチバチしそうな場面でも、仲良くなれることもある。それを言葉で説明するのは難しいなぁと思ってたら、ちゃんと映像と物語で見せてくれたことにすごく感激しました。

T:最初はジョーセットもマギーに対する抵抗感を露わにしていたけど、ふたりが気持ちを通じあわせていく過程が自然に描かれていましたよね。

J:興味本位でジョーゼットのいる本屋さんに行ったけど、しゃべってみたら、「あ、この人は私にないものを持ってて面白い」と思っちゃう。あの感じはすごくよくわかる。

T:男としては、ああやって裏で共闘態勢とられるのはかなりつらいと思う(笑)

J:あれはつらいですよねー。

T:そりゃあ、ジョンのようにやさぐれて黒の革ジャン着ちゃいますよ(笑)

J:音楽もすごくステキでしたよね。

T:音楽はビースティ・ボーイズのアダム・ホロヴィッツが手掛けています。冒頭からいきなり古いスカが流れてきて「おしゃれだなー」と思ったけど、要はスカがマギーの人生のペースの象徴になってるんですよね。とくに序盤はそれがすごく強調されていて。だからこそ、ジョンと結婚したあとに彼が大音量で鳴らしてるブルース・スプリングスティーンの『ダンシング・イン・ザ・ダーク』とのコントラストが際立つ。

J:娘のリリーを二人でいる直前のシーンまでワルツが流れてるのに、ジョンの登場で音楽が突然ジャーン!と変わる。あの時点でわかりますよね。

T:あの最初に『ダンシング~』が流れるシーンがふたりの行く末を示唆しているという。『ダンシング~』は劇中で2回流れるから、当然監督としてはこの曲になにかしらの意図を込めているということですよね。実は『ダンシング~』ってタイトルから連想されるようなロマンティックな曲ではなくて、当時プロデューサーに高いハードルを課せられたブルースが悶々とした状況のなかでつくった曲らしいんです。つまり『ダンシング~』とは意訳すると「暗中模索」であると。

J:五里霧中ってことですね!ある意味ジョンのテーマ曲ですね!

T:まさに、先のことがまったく見えていないジョンが置かれた状況のメタファーになってる。この『ダンシング~』もそうだけど、雪山での遭難だったりアイススケートだったり、わりとメタファーがわかりやすく提示されている映画ですよね。

dsc_0025

J:衣装ではジョーセットが印象的です。彼女の衣装は必ず(首回りに)毛があるんですよ!常に獣の毛をまとってる。そこに彼女の強さが表れていて、すごく上手な演出だと思いました。フェイクファーじゃなく、狩ってきた獣の皮をまとってるみたいで(笑)その彼女が北欧なまりで「私は夫を奪われてた悲劇の妻でいくつもりはない」とか、元ダンナのジョンにに対して、「あなたいつまでも被害者ヅラでいるつもり?」というようなセリフがありました。彼女は絶対に脇役にならないんですよね。自分の人生の主人公になるということに徹底的にこだわっていて、これは私たちが自分の人生を進めていく上でも大事なことだと思んですよ。SNSには、自分が人生の主人公だと錯覚をおこさせてくれるツールがたくさん装備されてます。Facebookなんて、何年か分の日常を動画にまとめてくれたりするじゃないですか。でもそれは、ちょっとむなしいというか、人の手によって作られたもので、その人自身がつかみとったものではないんですよね。だけど、ジョーゼットは、絶対に自分の人生の主人公でいようという意識を手放さないんです。日常生活のなかで、その意欲と、他者への思いやりに欠ける性分が背中あわせではあるのですが。一方マギーは、ジョンに「君は何がほしいのか?」と問われ、「自分に正直でいたい」と答えます。この「自分に正直でいること」が、この映画を面白くしてる要因のひとつだという気がします。『マギーズ・プラン』ってどんな映画?と誰かに尋ねられたら、私はどう答えるかなと考えた時、すぐに答えは出てきませんでした。むずかしいんです。テーマは何?と聞かれたら、人それぞれだとは思うのですが、私は「大人が自分に正直になるのとみっともない。けれど、それがみんなに幸せをもらたすこともある」ということがわかる映画だと思いました。正直って支離滅裂で、筋が通らなくて、人に迷惑をかける場合も多々ありますよね。大人になると建前論が非常に強固になって、本心が後ろに隠されていく。それこそジョンだって、向いてないとわかっていても小説を書き続けるのは、やめたら小説を書く自分に惚れたマギーに捨てられちゃうからだ!と酔っ払った勢いで告白するじゃないですか。

T:やめると捨てられちゃうから、向いてないのはわかってるのにがんばって3年も小説を書き続けたという(笑)。

J:本心が顔を出すまでには時間がかかりますよね。だって正直になったら、いま手にもしているものが全部なくなっちゃうかもしれないんだから。本心を言わずに我慢するのが大人だとも思うんですけど、それだけじゃいつか気詰まりもするし、マギーが言ってたように、子供はいつかみせかけだけの愛情に気づく。自分たちの心も蝕まれる。むずかしいですよね。

T:学校でケガをした子供をどちらが迎えにいくか、あのシーンのやり取りなんかは身につまされる共働き夫婦も多いんじゃないですかね。あと些細なシーンだけど「星占い見る?」「いや」の冷え切った会話(笑)。

J:小さな「NO」が一滴一滴少しづつ溜まって、いつかコップから溢れてしまう。

T:小さなストレスが蓄積していった結果、星占い見る見ないがトリガーになって離婚につながるという……あれは気をつけたいと思いました(笑)。

J:倦怠期のカップルや夫婦が1回そうなっちゃうと、旅行で気分転換しようとしても、楽しんだ翌朝にちょっと現実が戻るともうダメという。なんとか非日常にもっていって関係を修復しようとするけど、もう実は…というよくあるカップルの姿でしたね。

T:「不倫して結婚したもののやっぱり返したい」みたいなケース、実際に自分の身の回りであったことある?

J:結婚したあとだと正直に「返したい」とは言えないんじゃないかな。自分が間違いを犯したとは、まず思いたくないでしょうし。マギーのは自分が犯した間違いも素直に認めます。あれが普通はできなくて、えらいなと思いました。

T:最後のシーンも人によって受け取り方がちがってくるでしょうね。あれをハッピーエンドととるか、またやらかすことをほのめかしているのか(笑)

J:マギーはまたやるタイプですよ(笑)付き合う相手によって、自分の性格のどの部分が強調されるか変わりますよね。あんなにステキだったジョンが自分の前ではただのワガママになってしまったとマギーは悩みますが、マギーの前では全開なジョンの自己中心的な考えを抑制していたのは、ジョーゼットが輪をかけて自己中心的だったからと追追気づく。パワーバランスってあるんですね。

T:世の男性たちはこの映画をどう受け止めるのか、男ながら気になるところではあります。

J:立場から言ったら絶対に仲が悪くなるに違いないふたりが、気が合えば敵対せずともやっていける可能性があるというところ、女性はどう思うかな。ファンタジーかもしれないけど、子供を介すればなれるかも、という。ただ、子供は振り回されてましたね。子供にとって何が幸せなのか、それを考えさせる映画でもありました。

T:奥さんと一緒に観たら「夫、いらないかも?」ってなりそうで怖い(笑)

J:番組の某スタッフが奥様と一緒にこの映画をみたら、「で、私はあなたをどこに返却したらいいの?」って真顔で言われたそうです。なかなか返却する先がね、あるのかっていう。(笑)

T:うん、やっぱり一緒に観るのはやめておこう(笑)

J:ジョンが「俺は家庭を大事にしてたんだ!第一に考えてたんだ」と恩着せがましく怒っていたけど、あれはいただけなかったな。イーサンよくこの役受けたなと。ある意味嫌われかねない。

T:確かに、あのシーンはちょっと見苦しかった(笑)

J:NYの街並み、ファッションとインテリア、部屋、スタイリング、すべてが良いですよね。大学教授って人格者がなるものかと思ってたましたが、この映画をみて「我も人なり、彼も人なり」と思いましたね。

T:あと付け加えておくと、プロデューサーがアダム・ホロヴィッツのお姉さんのレイチェル・ホロヴィッツなんですよね。彼女は下積み時代にウディ・アレンやウェス・アンダーソンと仕事したことがあるみたいなんですけど、ふたりの影響を感じさせる部分もあるかなと。ニューヨークのおしゃれなラブコメということではウディ・アレンの一連の作品の系譜にあたるともいえるし、離婚した夫婦とその家族というところではウェス・アンダーソンがプロデュースした『イカとクジラ』を彷彿させたりもするし。あの映画もブルックリンが舞台でしたね。

J:ニューヨークにいきたくなりました。こういう映画みちゃうと、住んでる人のふりをして、斜めがけのバッグで、コートのポケットに手をつっこんでマンハッタンを歩きたくなる。

さて、あっというまに終了のお時間となりました。「ジェーン・スー 試写会は踊る」ご参加ありがとうございました。明日も午前11~13時までTBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」生放送やってます!

T:明日の選曲は劇中でかかってたような60年代のスカやロックステディで統一しているので、そちらも併せてお楽しみください。

J:スカのペースで生きられるマギーはちょっとうらやましかったですね。

T:あのぐらいのゆとりと余裕をもって生活したいよね(笑)
本日はどうもありがとうございました!

dsc_0050